オリィ研究所特集

カタツムリの研究から始まった、孤独を救う「分身ロボット」誕生秘話

オリィ研究所の共同創業者・結城明姫は、「世界を変える30歳未満」として日本を代表するビジョンや才能の持ち主を30人選出する「30 UNDER 30 JAPAN 2019」のサイエンス部門で選出された。

結城が共同創業者でCOOを務めるオリィ研究所は、人類から「孤独」をなくすことを目的としている。

孤独をなくす? どうやって? 誰しもそう思うだろう。結城が「孤独」という問題に取り組む理由に迫ってみよう。

オリィ研究所が開発したのは分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」である。メディアでも度々紹介されているからご存知の方も少なくないはず。結城が、会議室の机に置いた小型のOriHimeを見ながら、こんな話をする。

「利用者は、OriHimeを遠隔操作するときの感覚を、『憑依する』『パイロットとして中に入る』と形容してくれます」 

「憑依する」感覚になるのは、深い没入感が得られるからで、能面のような顔にヒントがある。まず、OriHimeの仕組みはこうだ。


OriHimeは「分身」型のロボットである。例えば、あなたが病院に入院していると考えてみてほしい。見えるのは窓の外の風景のみ。車椅子で院内を移動することはできるが、自由自在に動くことはできない。そこで、「分身」であるOriHimeを「行きたい場所」に置いてもらう。

学校の教室、あるいは旅行者が外国に行く時に小型のOriHimeをリュックに入れて持っていってもいい。OriHimeにはカメラとマイク、スピーカーが搭載されており、インターネットと接続することで、離れた場所にいる人とコミュニケーションができる。


憑依の感覚について、結城はこう言う。 

「タブレットのような平面のモニターだと、他の場所を繋ぐための『窓』として受け取られます。そのため、平面モニターに操作者の顔を映すロボットでは、操作者自身が人の輪に入っていくことが難しかったんです。でも三次元の顔があって物体が目の前で動いていると、周りの人が触ったり気軽に声をかけたり、その場にいるような感覚でコミュニケーションができる。現段階ではいまの形が最も人の輪に入りやすく、憑依する感覚を実現してくれます」


つまり、「コミュニケーションの距離感」を、能面のような顔のロボットにすることで縮めることができたのだ。学校の教室を見回しながら、友人が近寄ってきて、表情を近くで見ることができ、あたかも「その場にいる」ような感覚を体験できる。

通信技術の発達で、国境を超えた伝達は簡単になったが、「その場にいるような感覚」をもたらしたのは画期的だろう。「身近」をつくりだしたのだ。

OriHimeはもともとは病気や身体障害、高齢などが要因で移動制約を抱える人々の「分身」として開発された。サイズや形態は用途によって異なり、リモートワークやテレワークに最適化された机におけるほどの小型サイズから約1mほどのものまである。現在、月額レンタル制で展開されている。

しかし、なぜ若い結城が「分身」で「孤独」の解決を目指したのか? 実はその背景に、彼女自身の挫折がある。

“ソクラテスの問答”を仕掛ける父親

結城は数々の科学コンテストの賞を総なめした「天才少女」だった。 小学生の頃に取り組んだのが、カタツムリの研究だ。「とにかく可愛くて」と見た目から好きになったカタツムリを観察しているとき、ピーマンを与えたときに糞が緑色になることへ疑問を抱いた。物理学の教授だった母親は「じゃあ一緒に実験しようか」と、科学的実験の初歩を教えた。

「科学コンテストで賞をもらって褒められる成功体験を味わってから、調べることや観察自体が好きになりましたね」

さらに現在の結城を形成した要素として、両親の存在は欠かせない。思考の癖に関しては宗教哲学者だった父親の影響が大きいという。「物心がついたときからそうでした」と苦笑いしながら結城は振り返る。

「『今日は砂遊びをしたい』と言うと『なんで?』と必ず聞かれました。『お友達と遊んで楽しかったから』と答えると『なんで?』と、ソクラテスの問答のように、本質に辿りつくまで詰められるんです。でも研究とは『なんで?』を解き明かすことの連続。いつしか研究への抵抗感がなくなって、楽しいと感じるようになりました」

あらゆるものが彼女の研究対象となった。海辺に落ちているガラス片の色を落ちている場所ごとに比較したり、庭に突然生えたタンポポの奇形を観察したり。小学校、中学校に進学後も、好奇心は尽きるどころか研究はより本格化した。


病を機に「もうひとつの体」を求めるように


なかでも結城が強い関心を持ったのは、水だ。蛇口から流れる水の中に空気の柱が見えることに疑問を抱き、高校1年生から流体力学の研究を始める。その結果を発表した「高校生科学技術チャンレジ(JSEC)」で文部科学大臣賞を受賞。さらにJSEC入賞者の中から選抜された結城は、アメリカで開催される世界最大級の科学コンテスト「インテル国際学生科学技術フェア(ISEF)」の出場資格を得た。

心待ちにしていたISEF参加だったが、出場は叶わなかった。突如、結核を患ったからだ。結城は入院と療養で約半年もの間、家から外に出られなくなった。ISEFに行けないことは悔しかったが、それ以上に辛かったのが孤独だった。


「狭い世界に閉じ込められている感覚でした」と彼女は振り返る。


「学校に通えない、家族と旅行に行けない、会いたい人と会えない。病室の窓からは四季の移り変わりも感じられませんでした。精神的には元気だったので、『身体がもうひとつあったら』と強く願うようになったんです」 結核が完治した高校2年生のときにJSECへ再び出場。グランドアワード優秀賞を受賞しISEFに参加することになった。このときに、共同創業者である吉藤健太朗との交流が深まった。

ALS患者の存在意義を生む

07年、吉藤の発案から、人の孤独を解消するロボット『OriHime』の原型となるアイデアが生まれる。

かつて不登校の経験をもつ吉藤は、高校時代にはジャイロセンサによって傾きを感知し補正する車椅子を開発した異才だ。不登校時代に「人との関わりによって救われた」という原体験をもつ吉藤と、闘病時に孤独を味わった経験のある結城は意気投合。「孤独の解消」という理念に共感した。

発案から3年後の10年にOriHimeの初号機が完成。創業メンバーはみな一般企業での勤務経験もなく、ビジネスについてはド素人。当初はNPO化してやっていくのはどうかという議論もあった。しかし、翌年の11年にビジネスの方向に舵を切ることを選択した。

「OriHimeのサービスを持続的に、かつより多くの方々に提供するには、組織化してビジネスとして続けていくことが必要だと考えました」

ビジネスとして持続性を持たせるために、吉藤と結城の最適な役割分担は自然と決まった。「エンジニアというより、発明家です」という吉藤がアイデアを「発散」し、結城は現実的にどうすれば形になるかを考える。彼女の役割は、ビジネスサイドと接点をつくる役割だ。


当初ビジネスの経験がなかった創業者たちは、経験ある新たな社員、理想に共感してくれる協力者からフィードバックを募ることにより、資金難を乗り越え、OriHimeの認知を着々と広めた。

「利用者さんの忘れられない話があるんです」と結城は言う。


あるALS(筋萎縮性側索硬化症)患者がいた。妻と2人の小学生の娘がいるが、入院生活で家に帰ることができず、病気の進行によって体が自由に動かくなる。家族へ迷惑をかけてばかりいると感じる彼は「生き続けるかどうか」非常に悩んでいた。そんなときOriHimeと出会い、希望を見出したという。

「『やっぱり、父親のいない子ども達にしたくない』と強く思うようになったとおっしゃっていました。OriHimeを家に置いて利用することで、子ども達とのおままごと遊びを一緒にできたり、勉強を教えられたりできるんだ、と嬉しそうに言ってくれて。そして『家庭の中に、父親としての価値がちゃんと存在するんだと思えるようになった』と言ってくださいました。本当に感動したことを覚えています」

OriHimeは孤独を解消するだけでなく、利用者の存在意義にも光を当てる。そして今後、OriHimeをはじめとしたコミュニケーションテクノロジーを海外にも広げたいと語る。

「身体的、精神的、距離的障害の問題は人類共通の悩みです。本人の意思と関係なく社会参加ができないために、孤独を感じている人は世界中にいます。OriHimeは、彼ら、彼女らが“望む場”に入れるテクノロジーであり続けたいです」


<受賞者たちへの共通質問>
今後3年で成し遂げたいことは?



ゆうき・あき◎国際基督教大学教養学部卒業。高校時代に流体力学の研究を行い、2006年の高校生科学技術チャレンジで文部科学大臣賞、YKK特別賞をダブル受賞。インテル国際学生科学技術フェア(ISEF)出場を目前に結核に倒れ長期入院を経験するが、翌年再出場しグランドアワード優秀賞に。12年、吉藤健太朗、椎葉嘉文とともにオリィ研究所を設立。

FobesJAPAN2019/09/06より

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